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大阪高等裁判所 昭和40年(ラ)137号 決定 1966年7月29日

抗告人 大川光男(仮名) 外三名

相手方 畑中時子(仮名) 外二名

主文

原審判を取消す。

本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差戻す。

理由

一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙のとおりである。

二、当裁判所の判断

本件記録によると相手方らが、原審判書添付目録の物件中(3)、(5)、(6)、(7)、(8)の物件を他に売却処分したのは、抗告人らにつき認知の裁判が確定した以後のことに属することが明らかであるから、抗告人らを度外視してなされた右売却処分は、共同相続人の一人が単独で遺産を処分した場合と同様無効であり、抗告人らの請求する遺産分割の対象になるものといわなければならない。民法九一〇条は、認知前に他の共同相続人が遺産を処分した場合に関する規定であつて、認知により相続人たる資格を取得した後における遺産の処分については適用がないのである。そうであるのに原審判は認知によつて相続人となつたものが、遺産の分割を請求する前に、すでに遺産が他の共同相続人によつて処分されているときは、その処分が認知の前であると、後であるとを問わず、同条の適用があり、被認知者たる相続人は価額の請求だけしか許されないものと解し、処分された遺産を分割の対象から除外したのは失当である。

もつとも記録編綴の登記簿謄本によると、右物件についてはいずれも、認知前たる昭和三七年五月一二日付で相続による移転登記がなされ、相手方らは各三分の一づつの持分を有する共有者とされている。しかし、右登記が相手方らにおいて遺産の分割協議により、右物件につき物権的な共有者となつたことを前提としてなされたものであることを窺わしめる資料は全くない。むしろ相手方畑中時子が単独でなした相続登記でないかとの疑いが強い。したがつて、認知前に相手方らによつて物権的共有型への遺産分割がなされていたものとみることはできない。さらに右物件の買受人たる第三者保護の見地から、相手方らの売却処分は遺産分割前における持分の譲渡として、その効力を認めるべきではないかということも、一応問題となりうるが、記録編綴の売買契約書からは持分の譲渡とみることが困難であるのは勿論、持分の譲渡とすれば、右物件は買受人と抗告人らとの共有になるわけであり、特段の事情がない限り、これが買受人の意思に反しないものと速断することはできないから、右売却処分を持分の譲渡に転換してその効力を認めることもできない。

いずれにしても、原審判に民法九一〇条の解釈を誤つた違法があるとの抗告人らの主張は、右表示の遺産に関する限り理由があるから、他の抗告理由につき判断するまでもなく、原審判を取消し、本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差戻すこととする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長判事 金田宇佐夫 判事 中島一郎 判事 阪井いく朗)

(抗告理由省略)

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